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「小野駅前郷」にみる地域の再生

昨年末12月28日から、新年の1月8日まで、宮城県東松島市「陸前小野駅」(現在運休中)付近にある小野駅前応急仮設住宅に滞在し、そこに住む人が中心となり、復興に向けた活動の最初の立ち上げを支援するため、滞在させていただきました。
3.11以降、地域の再生、日本の再生ということについて、特に10ヶ月経ち落ち着いて来た現時点で、じっくりと取り組む時期に来ていると感じます。
これからの復興プロセスが、地域の再生、日本の再生と大きく関わってくると思っています。
現場レベルにおいては、ハードと同時にソフト、内外の人の関わりの中で、いかにしてより効果的に、コミュニティや地場産業の再建を進めて行くか、その「時計をつくる」プロセスが、今から重要となるでしょう。

ここ小野駅前応急仮設住宅は、約80世帯300人。奥松島として知られる東松島市旧鳴瀬町の宮戸島、東名、野蒜、浜市などの沿岸地域で生活していた方々で多くは構成されています。これらの地域は津波の被害も甚大で、今後移住が必要な対象地のひとつでもあります。
私たちは震災後の支援活動のなかで、松島町「品井沼農村環境改善センター」にて避難所生活を送っていた野蒜新町地区の方々との交流ができました。仮設住宅の切り盛りを中心的に担っているのは、自治会長で新町地区に住んでいた武田文子さん。これから、仮設での生活者が目標を持って生活し、各々の活躍の場をつくりながら復興に結びつけていきたいとの意欲を持ち、以前岐阜県池田町に招かれた際、「世界遺産・白川郷」にご案内したところ、住民が助け合いながらも観光で生計をたてているこの世界遺産を見、「あの仮設にもこのような発想が必要」との印象を持ち、「『小野駅前郷』をつくらなければならない」との着想に至りました。
今回、この「小野駅前郷」の初動のプラン整理、連携体制などの基礎をつくるため、うかがわせていただいたということです。
この「小野駅前郷」プロジェクトは、現在のところ、「①現在観光マップ制作(現在の奥松島の魅力を紹介する)」、「②奥松島ツアーガイド」、「③道の駅機能」、「④観光案内所機能」、「⑤特産品企画開発」という5つの活動プランを段階的に、且つ多くの皆様の協力を得ながら前進させていく計画となっており、小さな一歩ですが、前に進み始めました。

以下、この「小野駅前郷」プロジェクトを通じ、地域の再生(あるいは創造)という観点から、3つのキーワードに基づき、見解を記述します。
1.コミュニティと専門性・特異性(横軸と縦軸)
2.主体の確立・場の形成・協業
3.多元的つながりとフィードバック

1.コミュニティと専門性・特異性(縦軸と横軸)
仮設住宅での生活は、コミュニティの形成が生活や人命を左右します。
小野駅前応急仮設住宅は比較的近い地域の方が集まり、一世帯あたりの構成人数も多いため、お年寄りは集まってひなたぼっこをしながら談話し、また隣近所を配慮しながら生活する姿が、自律的に形成されています。
一方で、小野駅前と交流のできた仮設住宅の一つ、仙台市太白区の「あすと長町仮設住宅」については、約230世帯450人、独居の方も多く、宮城県内各地、岩手県、福井県など様々な場所から入居者が集まっており、隣にどこの誰が住んでいるのか分からない状態、そして、自治会も立ち上がっておらず、入居者情報も入手できないという完全に個別化された仮設住宅となっています。ここでは、そのような状況に危機感を抱いた鈴木良一さんら住民有志が「運営委員会」を立ち上げ、なんとかコミュニティをつくっていこうと奮闘されていますが、そのような努力にも関わらず、やはり犯罪(迷惑行為により逮捕者が2名)や、危うく孤独死が出るという状況などが発生しています。
同じ東松島市の「グリーンタウンやもと応急仮設住宅」も大所帯で、市内外各所から人が集まっており、一人暮らしも多く、殺人事件や孤独死が発生しています。
このような実例から、コミュニティ、助け合い、「絆」といった文化・風土が生活空間において形成されているか否かが、社会福祉の観点から重要であるということことが良く分かります。
一方で、コミュニティが形成されているというだけで若者は食べていけません。
現代の高度な医療、発達した交通網、通信技術や機器、魅力あるコンテンツなどの製品やサービスの創造には、過去からの蓄積と世界規模での経済的連携があってはじめて成立するものですが、これら高度に文明化された製品やサービスを消費する上では、相応の支出が求められます。
しかし、特に地方のコミュニティや、コミュニティ経済に従事する労働において、それらの全てを受益するに足る経済的価値を創出しているといえるかというと、実際のところ疑問です。
日本は、「一億総中流」と言われる認識の中で、国家も、最低賃金の保障、農家への保護政策、租税と再分配などの制度・機能の発揮により、国民の比較的均等な消費生活が支えられてきましたが、ボーダレス化とアービトラージ(国際的な価格水準の差を利用して収益の確保や収益構造の効率化・最適化を図る動き)が前提となり、資本と生産が偏重し始めた現代において、もはや制度や財政といった国家の機能だけでは、富の再分配を賄いきれないということが、失われた20年の中で確実に表面化しているのではないかと感じられます。
国際協力機構(JICA)理事長の尾形貞子氏は、「経済運営において富の分配に良識が働かなくなった結果かもしれない。自由な社会だけど、一部の人だけ裕福になる。これまで有効だった税制という手段だけでは再分配ができなくなってきた。」(*1)と、租税国家と自由市場主義経済に依存した社会の現状と限界について言及しています。
議論されている増税は、この事態を延命するための一つの応急措置策となるのですが、根本的にこのメカニズムが変わらない限り状況は快方に向かわないのではないでしょうか。
とるべき方策は、「①地方がそれぞれの専門性・特異性を高めグローバルな価値を提供する力をつけること」「②経済的な価値換算のパラダイム(基準)を転換すること」「③格差や生活水準の多様化を人々が受容し幸福に対する価値観の多様性を見出すこと」という3つがあると考えていますが、人々や社会システムが順応していくことがこれから行く先に、待ち構えているのではないかと思います。
また、これらの順応プロセスや努力の中で、例えば、都市と農村といった地域間の相互依存性を加味した経済運営を多様なレベルで図り、「不等価交換」を緩和(*2)していくことなどが一つの視点になる、特に被災地での復興プロセスと被災からの克服において、試されている事柄であると考えております。
地域レベルでの努力においては、「専門性・特異性を高めグローバルな価値を提供する」動きを地域再生(あるいは創造)における縦軸、コミュニティの形成を横軸とし、その双方を多元的に深化させ、内外の関係性を強化し、相乗効果を高めることで地域は豊かになると考えています。そのための都市戦略(被災地であれば復興戦略)が必要となります。
今回、「小野駅前郷」プロジェクトを一つの入り口とし、奥松島の復興、宮城の復興、さらに支え合う地域同士の連携 ”Networked States of Japan.” がうまく融合したとき、日本の再生にも光明が見えてくるのではないかと考えています。

2.主体の確立・場の形成・協業
私は被災者ではありません。
現段階では岐阜に戻ればそこでの生活があります。しかし、被災した小野駅前応急仮設住宅に住む住民は、そこでの生活を次第に再建していく必要があります。
中小企業の経営者であれば、ダメージを受けた事業なり事業体を再建する必要があり、そこから逃れることはできません。いずれかの段階で、全国的な支援の手を離れ、自立する時期が必ず来るのです。
確かに外部から来たひと、資本、企業などが進出し、その土地の経済活性化や雇用の確保に寄与することはできるでしょう。
しかし、そこに依存するだけで復興を果たしたとは言えないと思います。
地域の方々や地場産業などを主体に置き、その内発的な意思と力を引き出し、外部の支援の輪、連携の輪とを多面的に結びつけることが必要になるのだと考えております。
現在、小野駅前郷の主体となっているのは、かつて新町の住民だった仮設住宅の7名。
みなさんが個性や能力を持った個人なのですが、復興事業を構想し、具体的に進めていくというプロセスに関して、その手立てを持っている訳ではありません。
そこで今回は、話を聞き、構想イメージを引き出し、数枚の資料に整理し、ともに関係しそうな方々に対し、支援協力の呼びかけをしてきました。
「小野駅前郷」構想は、現在のところ「絵に描いた餅」です。しかし、そこに主体となる住民が中心にいながらも、周辺地域の方、宮城にいる意識の高い支援者や専門家、あるいは全国の支援者や専門家の参画する余地をつくり、相互の意欲と能力を引き出し、支援者は、「私にできること」でバトンの引き継ぎができる「場」を形成することで、小野駅前郷自体のエネルギーも拡張し、「絵に描いた餅」が、オマケ付きで現実化してしまうということに繋がるのではないかと期待を抱いています。
「①主体者の内発的な意思や力を引き出すこと」、「②支援者が参画しやすい場をつくること」、そして「③各位ができる範囲で能力を発揮すること」でこの小野駅前をはじめとした奥松島一帯の復興に、一歩、近づいていくことができると信じています。

3.多元的つながりとフィードバック
今回の「小野駅前郷」の現場での取り組みにあたり、多様なレベルでの連携、情報共有をし、気にかけていただき、サポートを頂いております。
地域内での連携、仮設住宅間の連携、行政との情報共有といった東松島市や宮城県内での連携共有。政策学校一新塾や東北まちづくりオフサイトミーティングのような学習意欲の高い人材の集まるコミュニティの連携共有。京都大学で行なわれた財政研冬シンポジウムのような学術コミュニティ。山形や宮城の学生ネットワーク。あるいは岐阜新聞など含めた岐阜県内の連携網。
地域、各種専門家、国や県、民間企業、NPOなど多様な関係者とのつながりや情報交換、連携、各位が役割を最適に発揮するための活動とフィードバックの共有を意識して進めています。
このような「多元的つながり」を持とうとする認識は、被災地で意識的に動き始めている人々や団体の中では一般化しはじめているようです。逆に長期的に復興支援を進める上では不可欠となるでしょう。
震災復興と地域再生、さらには日本の再生という共通目的において、様々なステークホールダーが情報に基づきアメーバのように自律組織化しているとも言えるのではないでしょうか。
これらの様々なレベルでの繋がりが広く、濃淡も多様であれば、より大きな効果が期待できる。「小野駅前郷」も絵に描いた餅ではなくなる可能性が高くなる。学術的にも良いフィードバックが得られる。復興の為の政策にもフィードバックできるだろう。それらが更なる相互依存、相乗効果を高める結果となる。ゆるやかな多元的つながりが情報(目的)に基づき自律組織化を図り、各位の成果をあげながらも全体の復興や再生と結びつく様は、まさにネットワーク型(つながり)社会の最大の効用と言えるのではないでしょうか。
ガバメント、ガバナンスからマネジメントへ(*1)と言われる地方自治の現場においても、今後、その仕組みや視点を学習・転用し、公共性を伴う地域の経営をオープンにしていく時期に来ていると考えています。

今回の復興プロセスを共有させていただくにあたり、私なりに、特に上述した3点を中心に現場レベルでの取り組みと社会システムや社会科学分野での貢献にも結びつけていきたいと考えております。「小野駅前郷」をどうぞよろしくお願い致します。

2012年1月8日
宮城から東京への車中にて

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<関連リンク>
「小野駅前郷」公式ブログ
あすと長町仮設住宅
政策学校一新塾
東北まちづくりオフサイトミーティング
みまもり隊
Smile Trade 10%
海野進「地域経営研究所」

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*1 日本経済新聞9面「日曜に考える」, 2012.1.8
*2 広井良典『創造的福祉社会—「成長」後の社会構想と人間・地域・価値』, 2011.7, pp.118-124, ちくま新書
*3 海野進『地域を経営する―ガバメント、ガバナンスからマネジメントへ』, 2009.4, 同友館
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by miyatahisashi | 2012-01-16 22:31 | 東北・宮城