新たな船出 – ‘Social Platform Business’ にかける思い

「最高のキャリアは計画して手にできるものではない。自らの強み、仕事のやり方、価値観を知り、機会をつかむよう用意をした者だけが手にする。なぜならば、自らの得るべきところを知ることによって、たんなる働き者が、卓越した仕事を行なうようになるからである」- Peter F. Drucker (*1)

3.11からの動き、あるいは中国大連市との交流の中から、私は今、務めている岐阜県の美濃加茂市役所から手を引き(辞め)、私のキャリアにとっての新たな未来へと一歩を踏み出すことを決意しました。

3.11においては、結果的に8度、宮城に行きました。人の生き方、これからの価値観について、あるいは経済・社会のパラダイムについて、私は問われていると感じました。
中国大連との接点ができる中で、現在の世界の地政学的動向や平和に対する認識を深めることができました。大連にも気づいたら昨年4月23日を皮切りに6度、足を運んでいます。そして、日本のこれからの産業・経済について、あるいは民族的・国家的アイデンティティの課題についても、一層問われることになるでしょう。
このような中、世界はどうなるか、日本はどうするか、地方はどうするか、そして個人としてどう動くかについて、今までの固定観念やしがらみを飛び越えて、考え、動かなければならない時機に来ているのだと思います。

未だに地域は俯瞰的、大局的、フラットでフレキシブルな視点や発想ではなく、立場、建前、体面を確立することによりタコツボ化(4T)されたムラ社会(「タテ」社会)により成立する既得権益のしがらみと支配の中、良く分からない「身内の論理」で動いており、様々な人財に由来する意欲やアイデア、行動が抑圧されているという現実があります。
先日、私自身、身を以てこの現実に直面し、痛手を被りました。

「日本の社会はいま問題になっているいじめと同じで、みんなが、上の人にいじめられ、しごかれて、「タテ」社会で失敗を避け、ゴマをすりながらここまできたという実感を無意識にでももっていますから、下の世代に対してそれを無意識に繰り返してしまいます。(中略)「タテ」社会では横に動ける可能性が少ないから無意識に、上にゴマをすり、へつらいはじめるのです。」(*2)

平成20年10月まで内閣特別顧問をされていた黒川清氏の指摘は、人口5万人程度のこの町にも大いに当てはまると思います。
美濃加茂にも、このような「タテ」社会があり、あるいは役所という組織にもあります。それは、硬直化され、根深く確立されているものだと実感しました。
そしてこの町の、天井を知りました。

訳の分からない「身内の論理」に同質化し、甘んじていては発展性がありません。
愚痴も増えます。人を信じることができず、謀略的になってしまうかもしれません。ゴマをすり始め、卑しくなるのかもしれません。目的を見失い、必要なところにエネルギーを費やし能力を高める努力をしなくなる怖れもあります。人格の破壊の予感と兆候を私の中に見出してしまったのです。
それは、個人のみならず、地域も、あるいは国としても同じでしょう。
それに気づき、立ち上がった個人、地域、国が、挑戦と努力の末に勝ち取るものがある、またその逆としての衰退もある。
その分岐点に今、来ていると、だからこそ、今までの固定観念やしがらみを飛び越えて、考え、動かなければならない時機なのだと思います。
そして、私は、現況の環境や立場から決別し、新たな見地から未来を創造する主体としての個人として、転身することにしたのです。

これからも、東北のことについて、中国(大連)のことについて、継続して、関心を持ち、貢献できる取り組みを進めていきたいと考えています。

東北については、現状、立ち上がる意欲のある中小の地場産業に対し、提供される十分な支援があるわけではありません。
今は、インフラ整備に対し、あるいは生活者の一定の生活水準の確保に対し、限定的な支援策がとられているにしかすぎません。国や県ができることは、それらのことに限られてくるのかもしれません。
東北は、新たな産業の創出と同時に、特色ある地場産業が再び立ち上がることがなければ、その地域経済の再生はありません。
地域経済の再生がなければ、多くの人は外部からの全面的な支援に依存し、低い水準のままの生活を余儀なくされるということになります。
しかし、これらの地場産業については、内需は十分に期待できません。特に食品関係については、被災地の商店街などの飲食店は地域によっては壊滅している為、内需回復の目処は立ちません。
また、資産価値が低下し、借金から設備投資にまわした設備自体が津波で損害を受けているケースも多く見られます。しかし、県や銀行の融資・支援の枠組みの中では十分な担保や信用が無く、資金繰りに奔走しなければならないといったケースも耳にしています。
この冬を乗り超え、魅力ある東北を再生せねばなりません。
その為に、全国の消費、寄付、善意の融資、あるいはその他のリソースを引き出し、供給する中間的な支援・コーディネート機能としての「地域再生事業体」が必要になると考えております。
地元の行政、中小企業、ボランティアで動く人、あるいは避難所で日々の生活を送る人、それぞれ個々のレベルにおいて、高い意識でがんばっている方と、この数回の訪問で出会うことができました。
しかし、それをまとめ、つなぎ、ニーズを汲み取り、地域再生をコーディネートする機能については十分に整っておらず、これが必要であると、前回までの訪問で確信しております。
今後「社会プラットフォーム」としてのそのような機能の組成と確立を進めて行きたいと考えております。
山形大学の知人は、「Smile Trade 10%」というパッケージとしての取り組みを通じ、大学としての支援プログラムを進めていますが、このような動きとも連携し、ひとまずは、ご縁のできた東松島、石巻といった地域を中心に、大きな枠組みとしての「地域再生事業体」の構築に動いていきたいと考えています。

大連については、10月1日に、岐阜県出身、あるいは縁のある方々の親睦、あるいは岐阜県と大連との友好交流の促進を目的とした「大連岐阜県人会」が発足しました。
2008年5月に日中間で調印された『「戦略的互恵関係」の包括的推進に関する日中共同声明』においてもキーワードとして浮上する「戦略的互恵関係」の推進に基づく観光、経済の交流意欲が日中関係においても機運が高まり、日本の技術等の優位性や中国の市場としての価値が認められつつある中(*3)、しかし、その具体的な方法論や機能については、十分に整備・確立されているとは言いがたいといえます。
関税、商習慣の違い、法務、カントリーリスクの問題、低品質の旅行サービス、あるいは国民感情や相互の不理解などの様々な面倒な要因が、互恵関係の形成を阻害しているともいえます。
ジェトロ、旅行会社、航空会社など個別の主体が、これらの現状に対し、確たる解決策を持っている訳ではありません。
これらの障壁を解消し、安全且つ適正に産業経済、並びに観光文化も含めた人的交流について、コーディネートする「社会プラットフォーム」が今後必要になります。
今後、個別具体的な取り組みを進める中で、これらの形成についても関与していきたいと思います。

以上の2つのプログラムにおける問題意識のいずれにおいても、市場、国家、市民、あるいは産官学民を総動員して、その問題解決にあたる社会的ソフトとしての場(プラットフォーム)の形成が、現状の環境の中で、新たな社会・経済を創造する要素になると考えております。
個人としての転身においては、これらの「社会プラットフォーム」を構築し、機能させ、秩序の形成と受益者(生活者、消費者、事業者)への波及をもたらす事業(Social Platform Business; SPB)を通じ、創造、個の尊厳、幸福に根ざした未来の社会基盤を創造する一つの貢献主体でありたいとの思いを抱き、新たな船出として、私はこの 'SBP' を携え、漕ぎ出したいと思います。
どうか今後ともよろしくお願いいたします。

2011年11月5日
岐阜県可児市にて

<関連リンク>
黒川清オフィシャルブログ
Smile Trade 10%
「戦略的互恵関係」の包括的推進に関する日中共同声明

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*1 P.F.ドラッカー『明日を支配するもの―21世紀のマネジメント革命』, 1999.3, ダイヤモンド社
*2 黒川清『イノベーション思考法』, 2008.3, pp.211-212, PHP新書
*3 外務省ホームページ『「戦略的互恵関係」の包括的推進に関する日中共同声明』, 2008.5
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by miyatahisashi | 2011-11-05 16:41 | その他
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