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復興価格は据え置きで

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昨日、高砂長寿味噌本舗より商品サンプルが届きました。
高砂長寿味噌本舗は宮城県石巻市に本社を構える(津波被害の影響で移転予定)味噌や醤油を生産する企業で、米麹と大豆麹を併用したまろやかで甘みのある「松島味噌」などを生産しています。
これからこちらの地域での販売や飲食店での利用などを促進し、復興の後押しをしていきたいと考えています。
「企業への補償は無いんですよね」という高砂常務の言葉もありましたが、津波をかぶった事業者の方々は、大変な苦労や見えない先行きのなかでがんばって立ち上がろうとしているのだと思います。
このような中、寄付、基金、支援商品(先物購買など)、実際の消費などといった、多様な側面からの経済的協力が重要となってくるでしょう。
高砂長寿味噌をはじめとした東北産品の購買は、私たちに「できること」のひとつなのかも知れません。

先日「六次産業化」という言葉を知りました。
六次産業とは、第一次産業(農林漁業)から第三次産業(商業)までを統合(1×2×3=6で六次産業)してひとつの主体が取り組み、その担い手となる生産者の所得を高め、農林漁業の持続可能性を確保しようとするものだそうで、昨年の12月3日に「六次産業化法(地域資源を活用した農林漁業者等による新事業の創出等及び地域の農林水産物の利用促進に関する法)」が交付され、農林水産省を中心に強力に推進(*1)とされることとなっています。

私は震災後初めて東北を訪れました。
東北は、美しい自然や産品のユニークさ、都市の形態などにおいて大変魅力的な地域であると感じました。
また、先週お会いしたのりの生産者や精肉事業者の方など、当然といえばそうかもしれませんが、それぞれがこだわりと気概を持ち、生産加工をしていることが分ります。
疲弊する地方の再興、地場産品などを生産する中小零細企業・農林水産業従事者の持続的発展のためには、廉価で大量生産・大量消費のパラダイムで効率的に展開される商品やビジネスに負けない「付加価値」を提供し、証明し、価格へと反映させる取り組みや、環境をつくっていくことが大切なのだと思います。
しかし一方で、一生産者、中小零細企業の立場からこれらの環境改善を図るには限界があることも現実ではないかと思います。
六次産業としての統合のみならず、農商工の連携、流通、小売、消費者の賛同と協力といった全ての関わる人々の力なしには実現し得ないものなのだと考えます。

「プラダとかグッチなどのファッションブランドは、そういうお客さんたちが育ててきたものです。使えるお金は決して多くはないけれども、いいものを長く着たいという人たちのために、お店は商品を作っているんです。つまりお客さんが商品を育て、ブランドを作ろうという循環が、いい意味でずっと続いているわけです。」(*2)

工業デザイナーの奥山清行氏が着眼するこのような循環を、北海道の釧路市では「産消協働」(*3)というコンセプトとして採り入れ、中小企業基本条例を制定しています。
中小企業基本条例では、「市民は、消費者として直接間接に中小企業の顧客となり経済循環の一翼を担っており、中小企業と互恵関係にある経済主体である」とし、「各経済主体は協働してその実現に向けて取り組むものとする」(*4)と条文に謳っています。

今回、仕入れる予定となっている産品の中には、一般の卸価格よりもあえて高く仕入れさせていただき、高い値段設定で販売させていただこうと考えているものもあります。
復興価格です。
「もう少し高くしましょう。がんばって復興させてください。がんばって良いものをつくってください。」そう伝えさせていただきました。
子どもの頃から「ものづくり」が大の苦手であった私ですから、良いものを作る作り手には感心し、感謝し、がんばろうという方々を尊敬もします。
「本来の」、あるいは現代にして「適正な」価格・価値に反映させ、消費者の理解と満足へとつなげていくお手伝いは、求められていることの一つだと思います。

思うと、私の住む地域にも様々な価値ある産品が既に存在し、眠っているのだと気づかされます。
かつて親しくさせていただいていた「小弓鶴酒造」のおり酒もそのようなものだったのかもしれません。
小弓鶴酒造では、江戸から続く「麹蓋」から麹を作り、麹作りからこだわりの濃い、コクのある酒を造っています。
美濃加茂市蜂屋で生産されている「堂上蜂屋柿」も同様でしょう。
こだわりを持ち、手間をかけ、品質と内容が充実している産品。それらの産品が果たして、現代にして「適正な」価値・価格へと反映されているのかについて、今一度検証していきたいと考えています。

大規模な生産、大量で廉価な製品は、多くの需要に対して効率的に供給をまかなう一方、資本と労働力の限定的な集約化が図られます。
そして、効率が高まれば高まるほど、その程度も高まっていきます。
それが、企業間の格差、地域間の格差を拡大させ、一方で競争を激化させる要因になっているのかもしれません。
そして、そのような単面的な社会や経済が、一人一人にとって幸福をもたらすものであるのかというと、一概にそうとは言えないのではないでしょうか。

生産者と消費者、地域と地域が対立や競争ではなく、相互理解、協調、創造的関係を築き上げていく中で、双方にとって有益な社会、経済環境を作り上げていくこと、釧路市の掲げる「産消協働」と「地域間協力」が、その有益な視点・手法となりうるのではないかと考えています。
また、それを実現させるための取り組み、知恵、技能なども必要になってくるでしょう。
それらを通じて、世界を、多くの人にとってよりよいものに出来るか否かが大切なのだと思います。

あえて震災の肯定的側面を見出せるとしたら、そのようなきっかけを私たちにもたらしたということなのかもしれません。
どう捉え、動くかは、残された私たちに委ねられたものなのです。

2011年7月30日
岐阜県美濃加茂市にて

=関連リンク=
高砂長寿味噌本舗
高砂長寿味噌本舗(You Tube)
釧路市HP(中小企業基本条例について)
小弓鶴酒造

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*1 農林水産省「農林漁業者等による農林漁業及び関連産業の総合化並びに地域の農林水産物の利用の促進に関する基本方針」, 2011.3.14, pp.2
*2 奥山清行『フェラーリと鉄瓶―一本の線から生まれる「価値あるものづくり」』, 2007.4.19, pp.49, PHP研究所
*3 釧路市「釧路市中小企業基本条例について」(ホームページより)
*4 釧路市「釧路市中小企業基本条例」, 2009.3.24
by miyatahisashi | 2011-07-30 22:56 | 東北・宮城
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